三菱重工業株式会社
三菱重工業株式会社の民間機セグメント(名古屋市港区)では、社員同士の横のつながりを広げ、社員の隠れた可能性を最大限に解放するべく、「ポテンシャル解放特区」をテーマにNewsPicks Enterpriseを導入しています。今回は導入の経緯や狙い、実際の活用法、今後目指していきたい方向性などについて、経営管理部組織風土改革グループ長の及川佳則氏、同じく組織風土改革グループの藤井由隆氏、エアロストラクチャー事業部業務管理課主席技師の郷家浩人氏に話を聞きました。聞き手はNewsPicks for Business組織変革ストラテジストの鳥海裕乃がつとめました。
三菱重工業株式会社
郷家 浩人
三菱重工業株式会社 民間機セグメント エアロストラクチャー事業部 生産管理部 計画グループ グループ長
及川 佳則
三菱重工業株式会社 民間機セグメント経営管理部組織風土改革グループ長
藤井 由隆
三菱重工業株式会社 民間機セグメント経営管理部組織風土改革グループ
鳥海 裕乃
CX事業部 組織変革グループ
保守的な組織風土と過去の成功体験から、社員が現状への危機感を感じづらく、会社の未来をつくるような部署を超えた会話やつながりが薄い
鳥海:
まずNewsPicks Enterprise導入のきっかけを教えてください。
郷家様:
元々、個人としてNewsPicksを利用していました。数あるニュースメディアの中でも、プロピッカーと言われる専門家の方々の記事に対するコメントを読むことで、ニュース記事単体より深みのある知識や情報を得ることができていました。これを自社にも導入することで、みんなが普段関わっている仕事の範囲だけでなく、もっと広い視点で物事を考えられるようになれば会社がもっとよくなると思い、話を伺ったというのがきっかけです。
鳥海:
三菱重工 民間機セグメント様の課題として保守的な組織風土があり、過去の実績が大きすぎるが故に、新しいアイデアがなかなか出ないなど、社員の方々が危機感を感じづらい環境になってしまっているとおっしゃっていましたよね。他に課題として感じていたことはありましたか。
及川様:
これまで9年間組織風土改革活動を続けていて、延べ2000人以上の方と話をさせてもらった中で、この人面白いな、素敵だなと思う人は何人もいましたが、その方々どうしの横のつながりはありませんでした。なんとかそういう人たちをつなげるような場があればいいと昔から思っており、今回NewsPicksさんからお話をいただいた時に、それが実現できるのではと思っていました。
組織風土改革グループは過去の問題がきっかけで発足したため、同じことが2度と起きないように人や仕組みを見直すための組織でした。しかし、その手法が、もしかすると人間の本来持っているポテンシャルを抑制してしまっている可能性もあるのではないか、という点に、当時は漠然とした課題を感じていました。
鳥海:
オンボーディング時のミーティングの際に、一度に全体を変えていくことは難しいので、まずは特区的な動きとして、徐々に社員のみなさまのポテンシャルを解放していきたいとお話されていたのを記憶しています。それで本プロジェクトのテーマが「ポテンシャル解放特区」になったんですよね。
実際にNewsPicks Enterpriseを導入いただいて、ここまでの手応えとしてはいかがですか。
及川様:
社員のみなさんがつながる「場」を提供できているという実感はあります。それぞれの職場でいろんな思いを持って個別に働いていた方々が、NewsPicksという場を提供することで、積極的にアイデアや意見をシェアするようになったと感じています。
鳥海:
「社内で誰かとこの情報を共有したいけど、どこで言えばいいのかわからない」と思っていた社員の方にとって、価値のある場を提供できたということですね。
郷家様:
横のつながりができることにより、普段仕事をする中では出会わないようなメンバーが社内にいるということを知ることができたので、良かったと思います。
また、あるトピックに対する社内の課題感が可視化されたことも良かった点です。ニュースによって会話が燃え上がるものとそうでないものがありますが、燃え上がるものはみんなが課題に感じているトピックなので、課題に対する熱量を可視化できるのは、今後の活動につなげていけると思っています。
鳥海:
みなさんが実は内心思っているけれど、なかなか表に出てこないものを可視化する、発掘する場所として、NewsPicksが貢献できたらいいなと思っています。どんな記事が盛り上がるのか、社員の方がどんな記事に共感するのかを、今後より活用していきたいです。
及川様:
個人的にはNewsPicksでの会話から生まれた財務勉強会が印象的です。ある社員の方が記事を投稿し、それに対するコメントのやりとりから人と人がつながっていき、最終的に経理の方につながり、勉強会の実現に至りました。事務局から働きかけたわけではなく、自発的に皆さんがつながったことがとても感動的で、組織風土改革活動を通じて実現したいと考えている働き方に近いな、と感じました。
郷家様:
私は、Netflixの社内にはルールがないという『NO RULES』に関する記事に対する会話が印象的です。個人的には組織のルールは最小限でいいと思っていたのですが、この記事に対して社内でいろいろな人の意見があり、最低限のルールは必要であるとの考えを持つ人もいました。性悪説に基づいた、ガチガチのルールに縛られた組織マネジメントに対しての疑問がある一方で、自分の中で考えをアップデートする必要があると思えた意見交換でした。
鳥海:
ニュースへのコメントを通して、違う立場の意見や観点を感じながら、どうやって正解を見つけていくかをともに考えていき、形にしていくのは良いことですね。
及川様:
コメントに対してコメントを返すといったキャッチボールがNewsPicks上で行われていて、とてもいい議論をしているんですね。ですので、コメントへの返信機能を拡張していただけると嬉しいですね。
鳥海:
NewsPicks Enterpriseはお客様のご要望にお応えしながら進化を続けていきます。実は来年にコメント返信機能をリリースする予定です。現在開発中ですので、来年以降、楽しみにしていただければと思います。
※コメントへの返信機能は2021年1月より実装し、活用されています。
藤井様:
自分が想像していなかったコメントの仕方が生まれてくるのは、「こんな使い方があるのか」と僕自身新鮮でした。「この記事についてどう思う?」という投げかけに対して、みんなが回答することもあれば、誰かのコメントに対して、みんながコメントを上書きする場合もありました。そもそもそこまで使ってくれるかがわからなかったので、うれしかったですね。
記事へのコメントがずっと残っており、後で見返すことができる機能がすごく良かったです。関連記事が上がった時に、元ネタの記事へのコメントを振り返ることで、いろんなものがつながる感覚があり、より理解を深めることができました。
鳥海:
一種のアーカイブ的な機能として、集合知のような役割も果たしていけたらと思っています。有効活用していただくために、いかに記事やコメントを取り出しやすい形でストックしていけるかは今後取り組んでいきたいです。
藤井様:
NewsPicksの場を拡張し、社員一人ひとりが自分の課題を投げ、メンバーの専門性や特徴をハッシュタグで検索できるようになれば、それでこの人に話してみようという流れができそうで面白そうですね。受動的ではなく、能動的にこの場を使うといった姿勢で。
鳥海:
みなさん誰かに向けてコメントを投げかけ合っている印象があるので、その雰囲気が御社の中で出来上がっているのは、すごくいいなと思いました。特区的な動きだからできることですよね。
及川様:
この特区をもっと広げたいと思う一方で、無作為に広げるのではなく、しっかりと展開を考えた上で広げていく必要があると感じています。個人的にはもっとこの空間が我々の手を離れていったら面白いと思っています。場として提供するだけで、それぞれ思い思いの使い方をしてくれたら、突拍子もないアイデアが生まれそうで面白いと思います。
郷家様:
NewsPicks Enterpriseを導入している他社と、互いの動向や感じている課題を共有したり、ヒントをお互い与え合えたりできたら楽しそうですよね。
鳥海:
まさにその取り組みを始めており、導入企業様同士でのオンライン座談会なども検討しています。日本を代表する大企業のみなさまに導入いただいておりますので、お互いに共通する悩みや課題も多いかと思います。過去に一度トライアルで座談会を開催したのですが、NewsPicksの効果的な活用法や、感じている課題の共有などで非常に議論が盛り上がっていました。そこも我々が提供できる価値だと思っています。
及川様:
我々は対面でのコミュニケーションを大事にしているのですが、コロナ禍で加速した新たな方向性として、オンラインによる場作りにも興味があるので、今回のプロジェクトはそのヒントになると思っています。会ったことのない人同士がオンライン上で会話できているのは今後の関係性の土台作りとして機能していて、コロナ終息後にリアルで会ったらスパークする可能性があると思っています。今後は対面とオンラインのハイブリッドを目指していきたいですね。
藤井様:
僕自身、新しいことを発想するのは苦手だと思っていましたが、みんながNewsPicks上でいろいろ意見を出し合いながら話しているのを聞き、「これとこれをつなげると面白そうだな」と考えるのが好きだと気付きましたね。
鳥海:
まさに新しいもの同士の組み合わせ、シュンペーターの言う「新結合」ですね。意見を出し合って初めて生まれるものですからね。少し引いた目線からおうかがいしたいのですが、コロナ禍で業態変革を迫られている企業も多い中、これまでのような守りの姿勢での組織風土改革から、イノベーションを生み出す組織をつくる、より攻めの姿勢での組織風土改革が求められているのではないでしょうか。
及川様:
性悪説に基づく管理統制の手法は、本来の人のポテンシャルを抑制しているのではないかと感じています。そのポテンシャルを開放していただくためには、NewsPicksなどの仕組みを使った組織風土改革の取り組みを通じて、自らの意思で行動を選択し、それを仲間と一緒に成し遂げることによって、組織や社会への貢献感を感じ、個々人が本来持っている内発的動機を喚起する必要があると考えています。そして、その方々が繋がることによって新たな挑戦が生まれ、イノベーションが起きていくのではないでしょうか。
郷家様:
コロナの影響により、エアライン業界は飛行機が飛ばなくなり、大きな打撃を受けていますが、社員の方が、エアライン業界が今後どうなっていくのか、我々はどうするべきかを考えるきっかけになった部分もあるので、この活動がそこは良い影響を与えていると感じています。
鳥海:
三菱重工さんの国産ジェット事業の凍結に関する記事に対して、こういう時だからこそ議論するべきだと、NewsPicks Enterprise上で声が上がったことは非常に印象的でした。自分たちの未来に関わるニュースだからこそ自分ごととして前向きに、フラットに、率直に議論していこうよ、という雰囲気を可視化できたことも良いなと思いました。
郷家様:
減産になっているこのような時期だからこそ、今は力を蓄える時期であり、次の動きをみんなで考えたい。いずれ需要が戻ってきた時に、プラスに動ける準備をしておきたいです。
鳥海:
攻めの姿勢で組織風土改革に取り組まれる中で、社内での抵抗は必ずあるものだと思います。いかにこの活動に意義を感じてくれる人を増やしていけるかが、期待されている部分だと感じています。
及川様:
矛盾しているかもしれませんが、そもそも「社員を変えていく」なんておこがましい話で、周りからすれば余計なお世話になってしまいます。ただ少なくとも我々は、いろんな情報を提供した上で、考える場、選択していただく場を作っているだけなので、変化を選ぶのは一人ひとりです。我々が「社員を変えなきゃ」と思った瞬間に歪んだ活動になってしまいますし、誰も賛同してくれなくなってしまうんじゃないですかね。あくまで我々は「媒体」だと思っているので、そこは大事にしたい部分ですね。